単一効特許制度 - 長かった物語の終幕
単一効特許制度の運用開始は,英国(UK)のEU離脱(Brexit)とドイツにおける違憲抗告によって先延ばしになっていた。この二つの障害がようやく解消された。英国は単一効特許制度に参加しない。UPC協定(UPCA)の仮適用に関する議定書が2022年1月に発効し,単一効特許制度創設に必要な国の批准手続が完了した。運用開始のタイミングを決めるいわば“門番”の役割を果たすドイツは,制度運用開始までに必要な実務上の準備がすべて整うように,批准の正式通告を意図的に保留している。ドイツが批准書を寄託したら,3ヶ月のサンライズ期間が始まり,サンライズ期間の終了後にUPCAが発効する。現在のところサンライズ期間は2023年3月1日に始まり,単一効特許制度が2023年6月1日に始動する見込みで,その日から統一特許裁判所が業務を開始して事件の受理が始まる。
最新の情報は,UPCのホームページ
https://www.unified-patent-court.org/en/news 参照。
単一効特許制度の簡単まとめ
欧州単一効特許(以下「単一効特許」)は複数のEU加盟国で有効な単一の特許権である(欧州共同体商標や欧州共同体意匠に類似)。これに対して,従来の欧州特許は実際には各国特許の束として付与されたものである。
UP制度は欧州特許条約に完全に統合されており,特許付与手続には何も変更はなく,欧州特許の付与に対する異議をEPOに申し立てられることも変わりない。また従来の欧州特許も引き続き利用できる。
統一特許裁判所(UPC)には,単一効特許と従来の欧州特許のいずれについても管轄があり,特許有効性および侵害についての判決を下すことになる。但し,移行期間中は,特許権者が従来の欧州特許をオプトアウトしてUPCの管轄を排除できる。
UPCでは,法律判事と技術判事が共同で審理にあたる。また,ドイツ弁理士と欧州弁理士の資格を持つ者は,UPCにおいて当事者の代理人を務めることができる
UPC制度における侵害訴訟や無効訴訟は,特許権者にとって有利に働くかもしれないが,潜在的なリスクも念頭に置いておく必要がある。侵害が加盟国多数に及ぶ場合には,UPCの方が有効だろう。また,技術判事が関与し,弁理士も代理人となる可能性があるので,判決の技術的性格が強くなることも考えられる。しかし,まだ判例がまったく存在しないこと,不利な判決が下された場合にはそれがすべての加盟国に適用されること(“一発勝負”),複数の侵害訴訟または取消訴訟を並行して行う方がリスク管理上は望ましい場合があることなどに留意する必要がある。
特許権者は,自ら保有する欧州特許の一部または全部についてUPCの管轄からオプトアウトするかどうか,慎重に検討の上で決定すべきである。オプトアウトの請求はサンライズ期間中にも行うことができ,オプトアウトを後で取り下げる(オプトイン)することもできる。